安全機器に関する資料 リスクアセスメントについて
機械は様々な危険を有しており、設計の段階で機械の安全性を検討する場合、機械自身が持つ危険の内容を事前に把握しておく必要があります。
このように危険の度合いを把握する事を「リスク査定」と言います。
下図は安全性の決定、つまりリスクアセスメントのプロセスを表したもので、三角形の面積はリスクの大きさを示しています。
リスク低減の目標

リスクアセスメントの手順
機械類のリスクアセスメントは下図の手順で実施されます。
実施した事によって、削減しなければならない残留リスクがあると判明した場合は、安全対策を実行しなければなりません。
この手順を繰り返すことによって、可能な限り危険を除去しかつ安全防護を実現するための反復処理が行えます。

1.機械の制限の決定
機械の制限の仕様は3つの制限の決定を行います。
使用上の制限 : 意図する使用、合理的に予見可能な誤使用への配慮空間上の制限 : 機械の可動範囲,オペレータ-機械間インタフェースへの配慮
時間的制限 : 機械、各コンポーネントのライフリミットへの配慮
2.危険源の同定
機械の全ての危険な状況および危険事象を明確化する作業のことです。
危険な状況や危険事象の例は下記に示す通りです。
機械的危険 | 電気的危険 |
押しつぶし、挟まれ、突き刺され、切断、衝撃など | 充電部との接触、絶縁不良、静電気放電など |
熱的危険 | 騒音による危険 |
火災、爆発、放射熱、やけどなど | 聴力低下、耳鳴りなど |
振動による危険 | 放射による危険 |
手、腕、腰、全身の重大な障害へとつながる | 低周波、高周波、紫外線、赤外線、X線など |
材料による危険 | 非人間工学の危険 |
有害、刺激、粉塵、爆発など | 不健康な姿勢、ヒューマンエラーなど |
3.リスクの見積り
上記の危険の同定を実施した後、「危険の起こりうる程度」と「その確立」つまり、どのくらい危険なのかを見積ります。
機械の様々なリスクに対する見積りによって、安全対策に対するカテゴリが選択されます。

※きちんと表示されない場合はこちらからお願いいたします。
カテゴリ | 要求事項の概要 | システム維持能力 | 安全性を満たすための原則 |
B | ◆制御システムの安全関連部品や保護装置およびそれらの構成部品などは、予想される動作時の圧力や処理剤の影響、その他機械振動や停電などが起きても耐えられるように、関連規格に従って設計・構成・選択・組立がされること。 | ・故障の発生は安全機能の喪失をもたらす。 | ・主に構成部品の選択による。 |
1 | ◆カテゴリB及び下記の事項が適用されます。 ◆カテゴリ1の制御システムの安全関連部品は、実績のある部品および安全原則を用いて、設計・構成されること。 |
・故障の発生は安全機能の喪失をもたらすが、故障発生の可能性はカテゴリーBより低い。 | |
2 | ◆カテゴリBに対する要求事項と実績ある安全原則の使用及び下記の事項が適用されます。 ◆カテゴリー2の制御システムの安全関連部品は、安全機能が適切な間隔で点検されるように設計すること。 |
・故障の発生は点検と点検の間において、安全機能の喪失をもたらすことがある。 ・安全機能の喪失は点検により検出される。 |
・主に構造による。 |
3 | ◆カテゴリBに対する要求事項と実績ある安全原則の使用及び下記の事項が適用されます。 ◆カテゴリ3の制御システムの安全関連部品は、単一故障で安全の喪失をもたらさないよう設計すること。 |
・単一故障が発生した際も、安全機能は常に機能する。 ・全てではないが、故障は検出される。 ・検出されない故障の蓄積は安全機能の喪失をもたらすことがある。 |
|
4 | ◆カテゴリBに対する要求事項と実績ある安全原則の使用及び下記の事項が適用されます。 ◆カテゴリ4の制御システムの安全関連部品は、単一故障で安全の喪失をもたらさないよう設計すること。 |
・故障が発生した際でも安全機能は機能している。 ・故障は安全機能の喪失を予防するために適時検出される。 |
Category
制御システムの安全関連部のアーキテクチャ(構造)を5段階に分類したもの。
カテゴリの要求事項はISO 13849-1 : 1999と基本的には同様。
カテゴリB
機械制御システム安全関連部の目的機能を実現すること。
予想されたストレス(例 : 震動、EMCなど)に耐えること。
カテゴリ1
カテゴリB+十分に吟味された高信頼性のコンポーネントを使用すること。
カテゴリ2
カテゴリB+安全機能が適切な間隔でチェックされること。
カテゴリ3
カテゴリB+単一欠陥で安全機能は損なわないこと。単一欠陥はできる限り検出されること。
カテゴリ4
カテゴリB+単一欠陥は安全機能実行時、もしくはその前に検出されること。
これが実施できないときは、欠陥の累積で安全機能を損なわないこと。
4.リスクの評価
リスクの見積りの結果を評価し、リスクの低減が必要か否かを判断します。
リスク低減の目標を達成している場合や、リスク比較の結果で良い結論が出たならば、
機械が安全であるとの確信が得られます。
リスクの評価の判定基準は、
①リスク低減目標の達成、②類似機械類のリスクとの比較をもってなされます。
また、最後に実行した手順及びその結果を論証するために文書化も要求されています。
5.リスク低減
ISO12100における安全方策を示すと、下記図の1~4の4通りになります。

設計によるリスクの低減(安全方策)
機械自体の設計段階で安全性を確保するために採られる処置で、ガードや安全装置等の安全対策で外部から補っていない状態の安全方策です。「本質安全設計」とも呼ばれます。- 安全防護
人を保護するための防護柵(ガード)または防護柵と安全装置を用いた安全対策で、設計によるリスクの低減で十分に安全性を確保できない時の安全対策です。 - 追加予防策
上記2つの安全方策ではリスク回避が不足する場合の安全方策です。 - 使用上の情報
機械使用時の機械起動または速度超過などの危険表示・警報装置や安全に使用するための表示、標識等、およびリスクアセスメントの結果、いまだ残留するリスクについてユーザーに提供するための付属文書(取扱説明書)とともに、警告、表示等の通知を行うことです。
機械類(機械) |
連結された部分または構成部分の組み合わせで、そのうちの少なくとも1つは適切な機械アクチュエータ、制御および回路などを備えて動くものであって、特に材料の加工、処理、移動、梱包といった特定の用途に合うように結合されたもの。 |
安全 |
リスクが許容可能な範囲内抑えられていること。 |
リスク(risk) |
傷害および健康傷害の発生確率とそのひどさの組み合わせ。 |
リスク分析(risk analysis) |
利用可能な情報を用いて、危険源を同定することおよびリスクを見積もること。 |
リスクアセスメント(risk assessment) |
リスク分析およびリスクの評価の全てのプロセス。 |
機械の”意図する使用” |
製造者が提供した情報に基づく機械の使用。 または機械の設計、製作および機能に基づき一般的であると見なされる使用。 |
合理的に予見可能な誤使用 |
製造者が意図しない方法での機械の使用。 容易に予測しうる人間の挙動から生じる。 |
参考文献
- ・ISO「機械安全」国際規格 (社)日本機械工業連合会編 日刊工業新聞社
- ・機械安全の国際規格とCEマーキング 丸山弘志 日本規格協会
- ・機械設計 日刊工業新聞社